歯と脳の関係
- 物を噛むと脳は刺激される
歯の働きは食べるという咀嚼機能だけではありません。
物を噛む行為は、同時に脳を刺激するという事がわかっています。
歯と歯を噛み合わせた時の刺激は、歯根にある歯根膜から脳に伝わり、その刺激は脳における感覚や運動、また記憶や思考、意欲を司っている部位の活性化に繋がるのです。
- 残存歯が少ないと脳の働きに影響が出る
東北大学が行った研究から、高齢者の歯の残存数と認知症との関連性を見ることができます。
健康な人では平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人では9.4本と明らかな差が見られます。
また、残っている歯が少ないほど、記憶や学習能力に関わる海馬や、意志や思考の機能を司る前頭葉の容積などが少なくなっていた事がわかりました。
この結果から、歯が無くなると、脳が刺激されなくなり、脳の働きに影響を与えてしまうという事が判明したのです。
- 歯が無い人の認知症リスクは高い
神奈川歯科大学の研究結果では、残っている歯の数が20本以上ある人と比べて歯が無く、入れ歯も入れていない人の認知症リスクは1.9倍。良く噛んで食べることができる人に対して、あまり噛めない人の認知症リスクは、1.5倍と高くなっています。
- 噛む事の必要性
- 噛む事を意識して食べると脳は活性化しやすい
歯があれば噛めますが、歯が抜けると噛めないだけでなく歯根膜もなくなり、脳へ刺激は伝わらなくなります。また、歯があってもあまり咀嚼を意識しないで食べていると、脳への刺激が少なくなってしまいます。このことから、脳を活性化するには意識して噛む事が重要だと言えるでしょう。
- 噛まないとアルツハイマー型認知症の原因蛋白は沈着しやすく、海馬の細胞数が減少
アミロイドβ蛋白とはアルツハイマー型認知症の原因と考えられている物質です。
広島大学は世界で初めて、よく物を噛む事が出来る正常なマウスと、元々歯がなく柔らかい物しか食べられないマウスを比較した研究を行いました。
その結果、歯のないマウスの方には、大脳皮質にアルツハイマー型認知症の原因と考えられているアミロイドβ蛋白が沈着し、老人斑が多数発生し、さらに、記憶や学習能力に関わる海馬の細胞数が少なくなっている事が判明したのです。
つまり物をよく噛んで食べる事ができなければ、咀嚼によって中枢神経が刺激される事も少なくなり、アルツハイマー型認知症を引き起こしてしまう確率が高くなるのです。
- 歯と認知症予防
- 歯を治療する事で記憶力が回復する例もある
奥歯を削り噛みにくくしたマウスの歯を、セメントなどで修復すると、正常なマウスと同じ程度にまで記憶力が回復したという研究結果があります。
噛み合わせが悪いまま放っておくのではなく、噛む事が出来るように治療することで記憶力の回復の可能性が高まるのです。
- 入れ歯やインプラントでも脳は刺激出来る
アルツハイマー型認知症の方の口の中を調べると、歯が無くなり、長い間良く噛んで食べる事が出来ていなかったと思われる人が多く見られます。
歯が無いと歯根膜が無くなるため、刺激が脳には伝わりません。しかし、歯に代わる入れ歯や、インプラントなどの治療を行えば歯と同様の働きをすることが出来るのです。
しかし、ただ入れ歯を入れるだけでは不十分です。北海道の病院で行われた調査では、入れ歯が合っていない人全てが認知症だったとの報告があります。
その人に合った入れ歯を使用し、正しく噛む事が重要なのです。